斜交継手を模型実験で検証する
―昭和62年度JSCA関西構造家賞をとられた沖縄サンマリーナホテルについてお聞かせ下さい。
山田 この建物は、リゾートホテルとして全客室から海が臨めるというコンセプトから、外観は下層階が末広がりとなるHP曲面を形成しており、内部は10層吹抜け大空間を構成しています。
構造種別はメガストラクチャー部をS主体被覆コンクリート造とし、周辺部をSRC造としました。
各フレームごとに柱の傾斜角が異なっているため、厚肉遠心力鋳造による鋼管柱とし、パネル部の板厚は50mmとしてダイアフラムを省略しました。
H形梁の仕口部が斜交継手となるので、理論値と実験値との整合性を確かめるために、故金谷弘先生(神戸大学)の研究室で、1/2.6縮小模型実験を行ないパネルの耐力と変形性状を確認しました。
架構全体が台形フレームとなっているので基礎梁にスラストが生じ、その引張力に対応できるようにプレストレスを導入しました
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プレストレスの緊張時間は、工期の都合で基礎梁コンクリート打設後先行しました。
このことから、上部架構は支点の水平移動量を見込んだ応力の見直しをやっています。
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デザイナーによって構造の力を高められた
―建築家とのかかわりについてお聞かせください。
山田 平田建築構造研究所に入社し、しばらくして担当者として建築事務所へ出向きました。
打合せをしていると、日夜所内で議論をしていることは何も聞かれず、建築を創る側での構造に対する問題点について数多く問われました。
即座に適格な答えが出せずTKOされてしまった思い出があります。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず」・・・この場合は、危険なことではなく構造設計は本職として毎日業務していますので、余暇を利用して建築の学問を学ばなければならないと考えました。
それからはデザイナーとともに建築の本を読み感想を述べ合って、時にはコンペの模型作りにも駆り出されたりしました。
構造理論だけを深く追求するのは学術研究者であって、構造実務家の本来の仕事は構造の学問を追及することだけでなく、建築の構造学を模索していくことなのです。
そんな時、ある建築雑誌に建築家の前川国男先生が『構造について』また、構造家の横山不学先生が『建築について』それぞれ論じ合っている対談の記事にふれ、深く感銘を受けたことを覚えています。
以降、良き建築家の人達とのかかわりを沢山持ち、色々なことを学びました。そして彼らは私の構造の力を高めてくれました。
彼らがいなければ、私の構造感はもっと狭められたのではないかと思います。 デザイナーなしで構造設計はできると思いますが、そうだとすると私が今まで進んできた道はまた違った道に向かっていただろうと思います。
構造人生における最高の感動
―尊敬する建築家についてお聞かせ下さい。
山田 数多くいらっしゃいますが、中でも故西澤文隆先生には深い思い出があります。昔、先生が打合せの場で「大丈夫でしょうか?」と言われると、どんな難しいことでも「大丈夫です(内心は命との交換のつもり)」と言ったことがありました。
大阪府淡輪の海洋センターの現場や長野県蓼科の現場、また、そのほかの現場に同行したとき、熱心に話をされたり、仕事を進められている姿を見るにつけ、大変感銘を受けたことを覚えています。
独立して5年が過ぎたある日、先生から突然電話を受け「安土モニュメントの計画をしているのですが、相談にのってもらいたい」という話でした。
この電話は私の構造人生における最高のものとして言葉に表せない感動を受けました。
この作品は、先生の遺作となってしまいましたが、建築家とのかかわりの中の一つとして忘れることのできない尊い経験の一つです。 |